インタビュアー 佐藤 満(トライ)
昨年11月から今年にかけ、松竹系で全国公開されて話題になった映画「ミッドナイトイーグル」の原作者、高嶋哲夫先生に、先日お話しを伺いました。
今回の取材は数多い著作の中から、教育問題(特にいじめの問題)を扱った著書「ダーティー・ユー」(光文社文庫)執筆の経緯や教育に対するお考えを聞く事になりました。
トライ
高嶋さんと教育とのかかわりはどのようなものですか。
高嶋
私は教育とのかかわりが深く、慶應義塾大学時代には家庭教師をしていましたし、その後、カリフォルニア大学(UCLA)に留学していた時も、あさひ学園という週1回(土曜日)日本の教材を使って現地と日本の学習レベルの差を取り戻す学校に講師として勤めていました。指導の対象は、おもに現地の企業に来ている日本人社員の子供たちでした。また、帰国してからは約15年間塾で指導しながら小説を執筆していました。
トライ
なるほど。教育問題に関わる小説を執筆するに至るご経歴がよく判りました。それでは「ダーティー・ユー」執筆のきっかけをお話し下さい。
高嶋
構想を持ったのは15年程前、1990年代前半だったと思います。執筆を始めた2000年頃はいじめが原因で自殺する生徒が相次ぐという世相で、山形県の中学生マット殺人などが大きな社会問題になっていました。当時指導していた塾の生徒たちも授業中の手紙のやり取りで誰かがやられているとか自転車をとられたとか情報交換をしていて、保護者に聞いてみても家庭では気がついていなかったというケースもありました。
トライ
身近で深刻な問題に取り組まれたのですね。
高嶋
万引きをしたり校舎のガラスを割ったりしても罪悪感が無い。その頃の公立校は悪い所が重なり合っている状態で、そのうえ学習塾など民間の力が弱い時代でした。偏差値偏重を否定する波の中で「塾なんて」という見方が多く、学校が荒れているのを正すことができなかった。
トライ
「ダーティー・ユー」の主人公ユー(雄一郎)は、アメリカ的な見方・考え方をもとに、最後まで日本的な妥協をせずに事件を収束させていきますね。
高嶋
人をたたくなどの暴力行為や他人を侮辱する行為は犯罪です。罪悪感の無い犯罪を曖昧にしておいてはいけない。その考えを明確に貫くように表現しました。
トライ
いじめのシーンだけでなく、現代の中学生の性格や行動、学校の教師の言動、全国大会レベルの部活動の日常の練習のハードさなどもリアルに描かれているように思います。主人公のアメリカ的な視点は冷静で客観的なもので、日米の教育の差を悪い意味で比較する描写をしていないところに説得力を感じます。いろいろな読者からの反響があったと思いますが。
高嶋
新潟大学教育学部附属中学校で2年生全員に教材として読ませ、ディスカッションや作文などの題材にしたり、演劇に仕立てて文化祭で上演してくれたりということがありました。その後「たけしのTVタックル」という番組に出演した時にも小学生担当の先生がおいでになっていて、声をかけられました。その他に、現在でも読者から感想のメールをいただいたりしています。
トライ
この作品に対する思い入れも深いものがあるように察していますが。
高嶋
子供たちや保護者はもとより、もっと一般の人たちにもいじめの問題の対して、問題意識を持ってもらうためにも手にとってほしいですね。
トライ
先生の教育に対するお考えを伺いたいのですが。
高嶋
まず「教育は人なり」ということです。教材以前に教える者の自覚が無ければならない。子供は教える者の顔色を見ます。必要な時には毅然とした態度を取らなければならないのに、今の教師はその点が不足しています。自分は教える側として子供たちの人生観を変えていくという意識を持って欲しい。普段は友達でもいいが、絶対的に正しいものを持っているという気概を持って生徒に接する事が大切です。もし、生徒の質問で分からない事があってもあとで徹底的に調べて生徒が驚くくらいきっちりと教えるという気持ちが欲しいですね。国際的な比較での学力低下の問題など、これから教育はますます大切になっていくと思いますから。
トライ
先生の読書体験を聞かせて下さい。
高嶋
読書は総合的な力を養うのに最適だと思います。私の読書体験で大きなものは、小4の時と大学1年の時でした。小4の時は図書館担当の先生に図書館の使い方を教えてもらい、少年少女文学全集(50巻)をはじめ、ファーブル昆虫記やシートン動物記などを読み漁りました。大学1年の時は、医学部の友人に、小堀憲の「大数学者」と湯川秀樹の「旅人」を紹介してもらい、高校時代に読んだという友人に驚きながら読みました。その後のアメリカ留学の時も小説はよく読みましたね。また、小説を書く時に参考にする資料を読むのはどんなに膨大でも大学で専門の研究をしていた時の経験が役立って苦になりません。
トライ
色々なきっかけで読書の力を身につけて行かれたのですね。お薦めの本はありますか?
高嶋
伝記です。子供に読んで欲しい。しかもできるだけ小さいうちに。色々な人の人生を自分のものとして受けとめて欲しいと思うのです。私が指導していた塾には小学生向けの伝記全集が揃えてあって、生徒たちが家に持ち帰って読んでいました。結構人気があったと思います。
トライ
今後のご活躍を期待したいと思います。本日はありがとうございました。
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プレゼント期間:2008年3月9日(日)〜4月6日(日)
高嶋哲夫(たかしまてつお)
1949年7月7日、岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。 日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。
1979年 日本原子力学会学会技術賞受賞
1990年 『帰国』で第24回北日本文学賞受賞
1994年 『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞受賞
1999年 『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞
2006年 井植文化賞受賞
2007年 『ミッドナイトイーグル』が映画化(松竹映画、ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン)
<著書>
『トルーマン・レター』
『
M8
』
『TSUNAMI』
『
巨大地震の日
』(集英社)
『ペトロバクテリアを追え!(文庫『ペトロバグ』)』『スピカ 原発占拠』『塾を学校に』(宝島社)
『冥府の虜 プルトーン(文庫『冥府の使者』)』(祥伝社)
『フレンズ シックスティーン』(ハルキ・ノベルズ)
『
ペトロバグ
』
『イントゥルーダー』『ミッドナイトイーグル』
『
虚構金融
』(文藝春秋)
『ダーティー・ユー』(光文社)
『
命の遺伝子
』(徳間書店)
高嶋哲夫さんオフィシャルブログ
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